拝啓
お元気ですか。
貴方が苦手な祖母と悪戦苦闘している様子、風の便りで伺いました。
ごめんね。
さて、私は本日彼と雪がちらつくところへ温泉に入りに参りました。
大雪見たかったと言ったらここへ運んでくれたのです。
彼といっても貴方に紹介する程の間柄でもないので知らないでしょうけどね。
私もあえてそんな事には触れませんけれども。
いつもの車酔いをしながら、なんとか来ました。
温泉にゆっくりつかり、夜の雪を見て、
お酒で赤くなった体で軽くじゃれあっていると、
この間式前日にどうしても頭が洗いたいといって
私が一緒にお風呂に入ったのを思い出しました。
何故私が任命されたかと言うと犬や猫を洗う係がいつも私で
しかもかなり上手かったからですね。
狭い風呂場で母の体を見るのは久方ぶりでしたが、
痛々しい傷痕をみながら年をとったなあとしみじみ思ったものです。
そしてもうすぐ誕生日ね、貴方は予定より一か月早く生まれてきちゃったから
普通の人より何か足りなく危なっかしい人になってしまったけど、
年金位は入っておきなさい、これから何があるか分からないんだからと言ってました。
でも、おかあさん。
私ねえ、こんな風に自然の中でこれ以上気持ちいい事はもう味わえないかもしれないと感じる時、
もはやこの人生終わりにしてもいいかな、とか思ってしまうんでした。
子沢山の貴方もさすがに怒られるでしょうが
私はやはり人として大事な何かを貴方のおなかに忘れてきた
未完成な奴なのかもわかりません。
何かやらかしてやろうという気持ちと、それを馬鹿にした気持ちが行ったり来たり
微妙なバランスで日々、いや秒刻みで揺れ動くんですよ。
そんな事を考え、ほんの少し涙ぐみながらいたしておりますと
彼が自分のいい方へ勘違いした模様で思わず吹き出し
また余計なしめつけをしてしまったのでした。
また馬鹿な「笑いネタ」だけをお土産に帰りますが
それまで足のリハビリと俳句、頑張って下さいね。
では、また。
敬具
母上へ かなり酔っ払いながら。雪国より。
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